タイの個人所得税ガイド|税率・180日ルール・PND90/91・給与源泉税
タイの個人所得税(Personal Income Tax/PIT)は、日本人駐在員や現地採用者本人の年次申告だけの問題ではありません。タイ法人側でも、毎月の給与計算、現物給付を含む課税所得の判定、源泉徴収、PND1の申告、年次資料の発行までを一つの運用として管理する必要があります。
制度・公式情報の確認日:2026年7月26日
タイの個人所得税は、課税所得に対して0〜35%の累進税率で計算します。暦年中にタイへ180日以上滞在すると税務上の居住者に該当し、タイ源泉所得に加えて、2024年1月1日以後に得た一定の国外源泉所得をタイへ送金した場合の扱いも確認が必要です。
会社側は給与支払時に源泉税を計算し、通常はPND1を毎月提出します。本人の年次申告は、給与所得のみならPND91、給与以外の所得もある場合は原則としてPND90を使い分けます。
本人の年次申告と会社の給与源泉税は別の手続
「タイの所得税」では、個人が最終税額を精算する年次申告と、雇用主が給与支払時に行う源泉徴収を分けて考えます。会社が毎月源泉税を納めていても、本人の年次申告が不要になるとは限りません。反対に、本人が年次申告する場合でも、会社側のPND1が不要になるわけではありません。
| 区分 | 主な担当 | 主な手続・書類 | 管理単位 |
|---|---|---|---|
| 給与源泉税 | タイ法人・雇用主 | 給与計算、源泉徴収、PND1、源泉徴収証明 | 毎月・年次 |
| 個人所得税 | 本人 | PND90またはPND91、納付・還付 | 暦年・年次 |
| 社会保険 | 会社・本人 | 加入、給与控除、会社負担、月次納付 | 毎月 |
| 法人所得税 | タイ法人 | CIT 51、CIT 50、税務調整 | 会計期間 |
給与・源泉税・社会保険は同じ給与データから計算されますが、法的には別の義務です。社会保険の登録・料率・給与連携はタイの従業員社会保険ガイド、法人側の税務申告はタイ法人税・申告ガイドで整理しています。
180日ルールで税務上の居住者を判定する
タイ歳入局の案内では、一つの暦年にタイへ合計180日以上滞在する人は、個人所得税上の居住者とみなされます。連続180日である必要はなく、対象年の滞在日数を合算して確認します。ビザの種類、労働許可証、国籍、会社の赴任区分だけで自動的に決まるものではありません。
| 判定 | タイ源泉所得 | 国外源泉所得 |
|---|---|---|
| 居住者(180日以上) | 原則として課税対象 | 2024年以後に得た所得をタイへ送金する場合など、現行ルールを確認 |
| 非居住者(180日未満) | 原則として課税対象 | 通常はタイでの課税範囲外だが、所得源泉と事実関係を確認 |
タイで行った勤務に対する給与は、日本本社や国外口座から支払われていても、タイ源泉所得として扱われる可能性があります。誰が支払ったかだけでなく、勤務場所、雇用契約、出向契約、費用負担、滞在日数を合わせて確認してください。
年初から残しておく資料
- パスポートの入出国記録と年間滞在日数
- タイ法人・日本法人との雇用契約、出向契約
- タイと国外の給与明細、賞与、手当、現物給付
- 会社間の給与・人件費の請求、負担関係
- タイへの国外送金日、金額、送金元、原資の年
- 日本側の源泉徴収票、申告書、納税証明等
タイの個人所得税率は0〜35%の累進税率
個人所得税は、総収入に一律の税率を掛けるのではなく、所得区分ごとの必要経費、各種控除・免税を反映した課税所得を段階に分けて計算します。2026年7月26日時点でタイ政府・歳入局が案内する税率表は次のとおりです。
| 年間の課税所得 | 限界税率 | その段階までの税額目安 |
|---|---|---|
| 0〜150,000 THB | 免税 | 0 THB |
| 150,001〜300,000 THB | 5% | 最大7,500 THB |
| 300,001〜500,000 THB | 10% | 最大27,500 THB |
| 500,001〜750,000 THB | 15% | 最大65,000 THB |
| 750,001〜1,000,000 THB | 20% | 最大115,000 THB |
| 1,000,001〜2,000,000 THB | 25% | 最大365,000 THB |
| 2,000,001〜5,000,000 THB | 30% | 最大1,265,000 THB |
| 5,000,001 THB以上 | 35% | 5,000,000 THB超の部分に35% |
5,000,000 THBを超えた場合も、全課税所得へ35%を掛けるのではなく、各所得階層に対応する税率を順番に適用します。給与からの月次源泉税も、年間見込給与、控除、既に徴収した税額等を踏まえて計算します。
簡易例:課税所得1,200,000 THBの場合
控除後の課税所得が1,200,000 THBであると仮定すると、最初の150,000 THBは免税、次の150,000 THBに5%、次の200,000 THBに10%、次の250,000 THBに15%、次の250,000 THBに20%、残り200,000 THBに25%を適用します。この例の税額は165,000 THBです。
実際の税額は、給与以外の所得、年間途中の入退社、国外給与、賞与、会社負担の福利厚生、所得控除、源泉税額、租税条約上の取扱い等により変わります。
給与・賞与・手当・現物給付をまとめて確認する
雇用に関連して受け取る現金給与だけでなく、賞与、住宅、車両、学費、保険、税金の会社負担等も、事実関係によって課税対象となることがあります。「会社が直接払った」「給与明細に載っていない」という理由だけで対象外にはできません。
| 給与項目 | 確認する内容 | 必要な証拠 |
|---|---|---|
| 基本給・賞与 | 対象期間、支払日、タイ勤務分、外貨換算 | 契約、給与明細、銀行記録 |
| 住宅・車両等 | 会社契約、個人利用、負担額、課税評価 | 賃貸・リース契約、請求書、社内規程 |
| 日本払い給与 | タイ勤務との関係、会社間負担、為替 | 日本側明細、出向契約、会社間請求 |
| 会社負担の税金 | 税引手取り保証、グロスアップ、追加課税 | 赴任規程、税額計算、精算資料 |
| 退職・解雇関連 | 支給理由、勤続年数、別計算の可否 | 退職合意、計算書、会社決議 |
給与データは、源泉税だけでなく、社会保険、会計仕訳、費用配賦、法人税上の損金、会社間取引にも影響します。月次経理と給与計算を別々の数字で締めないことが重要です。実務の委託範囲はタイの会計事務所・経理代行の選び方でも確認できます。
PND1は会社が提出する給与源泉税の月次申告
タイ法人・雇用主が従業員へ給与等を支払う場合、年間見込額と法令上の計算方法に基づいて個人所得税を源泉徴収し、PND1で申告・納付します。タイ歳入局の通常期限は、紙提出が支払月の翌月7日まで、電子申告は原則として8日延長され翌月15日までです。休日・臨時延長・当年度の運用は毎月の公式税務カレンダーで確認してください。
-
当月の給与項目を確定する
基本給、賞与、手当、現物給付、タイ払い・国外払い、入退社、過年度調整を締めます。
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年間見込の個人所得税を再計算する
累進税率、控除、既徴収額、残りの給与回数を反映し、当月源泉額を計算します。
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給与台帳・会計・社会保険を照合する
総支給、控除、手取り、会社負担、未払給与、支払口座の数字を一致させます。
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PND1を申告・納付する
従業員別明細、合計、受付、納付証憑を保存し、修正があれば追加申告を管理します。
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年末資料へ累計する
年間給与と源泉税を従業員別に累計し、年次集計・証明書・本人申告と照合できる状態にします。
賞与、昇給、入退社、控除情報の変更、日本払い給与の追加、前月までの過不足により、月ごとの源泉額は変わり得ます。前年の固定額や月給への単純な税率掛けで処理しないでください。
PND91は給与のみ、PND90は給与以外の所得もある人
タイの個人所得税は暦年単位で計算し、原則として翌年3月末までに申告・納付します。電子申告の期限は年度ごとの延長措置があるため、対象年度の公式フォーム・カレンダーを確認します。
| 申告書 | 主な対象 | 典型例 |
|---|---|---|
| PND91 | タイ歳入法Section 40(1)の給与所得のみ | 一社または複数社から給与のみを受けた従業員 |
| PND90 | 給与以外の所得を含む一般的な申告 | 給与に加えて賃貸、事業、専門報酬、配当、利子、国外所得等がある人 |
| PND94 | 一定の所得に関する半期申告 | 賃貸・事業等、法令上の対象所得が上半期にある人 |
申告書の選択は「会社員かどうか」ではなく、その年に受けた所得の種類で決めます。給与所得者でも、副業、賃貸、役員報酬以外の報酬、国外所得等があればPND90となる場合があります。年途中で勤務先が変わった場合は、各社の年間給与・源泉税資料を合算します。
年次申告で集める主な資料
- タイの給与・源泉徴収証明、月次給与明細
- 日本・国外払い給与、賞与、手当、会社負担項目
- 銀行利息、配当、賃貸、事業、専門報酬等の明細
- パスポート、Tax ID、住所、婚姻・扶養等の情報
- 保険、基金、寄附等、対象年度の控除証明
- 国外所得の発生年、送金日、送金額、銀行記録
- 国外で納付した税金と外国税額控除の根拠資料
- 前年申告、還付、追加納付、繰越に関する資料
2024年以後の国外所得とタイ送金を確認する
タイ歳入局の2024年PND90ガイドと国外所得資料では、タイの税務上の居住者が2024年1月1日以後に得た一定の国外源泉所得を、同じ年または後の年にタイへ送金した場合、タイの個人所得税の対象になり得ると案内しています。
| 確認項目 | 実務上のポイント |
|---|---|
| 所得の発生年 | 2023年以前か、2024年以後かを分ける |
| 送金した年 | 所得を得た年と同年か、後年かを記録する |
| その年の居住者判定 | 送金年を含む対象年のタイ滞在日数を確認する |
| 所得の種類・源泉地 | 給与、配当、利子、譲渡、賃貸等を区分する |
| 国外で納付した税 | 租税条約、外国税額控除、証明書、換算方法を確認する |
タイ歳入局の外国税額控除ツールは、租税条約がある国について、国別・所得区分別に控除限度額を計算する前提を示しています。日本とタイには所得税に関する租税条約がありますが、二重課税が自動的に解消されるわけではありません。居住地、所得源泉、課税権、国外納税額、証明書、申告方法を確認して適用します。
送金には、当年所得、過年度所得、貯蓄、借入、資産売却代金、立替精算等が混在することがあります。発生年と原資を区分できる銀行資料・契約・申告資料を保管してください。
個人の年次申告を進める7ステップ
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滞在日数を確定する
対象暦年の入出国記録から180日以上かを判定します。
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所得を国・種類・発生年で集計する
タイ給与、国外給与、賞与、現物給付、給与以外の所得を分けます。
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タイ源泉所得と国外源泉所得を判定する
勤務場所、契約、費用負担、資産・事業の所在地を確認します。
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経費・控除・免税を確認する
対象年度の公式ガイドと証明書に基づき、適用可否と上限を確認します。
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源泉税・国外納税額を照合する
会社のPND1累計、源泉徴収証明、国外の申告・納税資料を突合します。
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PND90またはPND91を選ぶ
給与のみか、他の所得があるかを確認し、必要な添付を準備します。
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申告・納付・控えを保存する
受付、納付、還付、計算、添付、為替換算、根拠資料を年度別に保管します。
申告前の差額チェック
給与明細とPND1
年間給与・賞与・源泉税の累計が、会社の月次申告と一致しているか確認します。
タイ払いと日本払い
日本本社払いの給与や手当が、タイ側の年間集計から漏れていないか確認します。
現物給付
住宅、車両、税金負担等が給与台帳外で処理されていないか確認します。
滞在日数
予定表ではなく、実際の入出国記録で180日判定を行います。
国外送金
送金日、金額、原資の発生年、所得種類を証拠と対応させます。
外国税額控除
国外納税額を全額そのまま控除せず、租税条約と限度額を確認します。
雇用主の月次・年次チェックリスト
- 従業員ごとのTax ID、住所、入社・退社日を更新した
- タイ払い・国外払いの給与と賞与を同じ台帳に集約した
- 住宅、車両、学費、保険、税金負担等の現物給付を確認した
- 月次の給与、源泉税、社会保険、手取り、銀行振込を照合した
- PND1の従業員別明細と会計上の給与・未払税金を一致させた
- 昇給、賞与、入退社時に年間見込税額を再計算した
- 年次の給与・源泉税集計と本人向け証明資料を準備した
- 本人のPND90/91で使う年間数字との差額を事前に確認した
- 申告受付、納付証憑、給与台帳、根拠資料を月別・年別に保存した
よくある運用ミス
| ミス | 起きる問題 | 予防策 |
|---|---|---|
| 日本払い給与の未連携 | PND1・年次申告と実際の報酬に差が出る | 本社から月次データを締切前に受領する |
| 現物給付の台帳外処理 | 課税給与・源泉税が不足する可能性 | 会社負担項目を給与レビュー対象に含める |
| 年間見込の未更新 | 年末に大きな追徴・還付差が出る | 賞与・昇給・入退社時に再計算する |
| 会社と本人の担当分断 | PND1とPND90/91の数字が一致しない | 年次申告前に同じ給与台帳で突合する |
| 180日判定の思い込み | 国外所得の課税範囲を誤る可能性 | 入出国記録で毎年判定する |
| 送金原資の証拠不足 | 国外所得・過年度貯蓄等を区分できない | 発生年・口座・送金を対応させて保存する |
タイの個人所得税・確定申告のよくある質問
タイの個人所得税率は何%ですか?
課税所得に対して0〜35%の累進税率です。150,000 THBまでは免税で、その後は5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%の順に段階適用します。
180日未満ならタイで所得税はかかりませんか?
必ずしもそうではありません。非居住者でもタイ源泉所得は原則として課税対象です。180日ルールは居住者判定に使い、所得源泉の判定とは分けて確認します。
日本本社から払われる給与もタイで課税されますか?
タイで行った勤務に対する給与は、国外から支払われていてもタイ源泉所得となる可能性があります。勤務場所、雇用・出向契約、費用負担等を確認します。
タイの確定申告期限はいつですか?
個人所得税は暦年単位で、原則として翌年3月末までに申告・納付します。電子申告の延長や休日対応は、対象年度の公式フォームと税務カレンダーで確認してください。
PND90とPND91の違いは何ですか?
PND91は原則として給与所得のみの人、PND90は給与以外の所得もある人が使う一般的な申告書です。その年の所得種類で選びます。
PND1は本人が提出する申告書ですか?
PND1は、雇用主が給与等から源泉徴収した個人所得税を毎月申告・納付するための書類です。本人の年次申告PND90/91とは別です。
PND1の期限はいつですか?
通常は紙提出が支払月の翌月7日、電子申告が原則翌月15日です。休日や当年度の延長措置は毎月のタイ歳入局カレンダーで確認します。
会社が給与の源泉税を払えば本人の確定申告は不要ですか?
源泉税は年税額の前払いです。本人の所得額・所得種類・申告要件に応じて年次申告が必要になります。会社の源泉徴収額は年次申告で精算します。
国外所得をタイへ送金すると課税されますか?
タイの税務上の居住者が2024年1月1日以後に得た一定の国外源泉所得をタイへ送金した場合、課税対象になり得ます。所得の発生年、送金年、原資、国外納税、租税条約を確認します。
日本で納税した分はタイの税金から控除できますか?
日タイ租税条約とタイの外国税額控除の要件・限度額に従い、控除できる場合があります。日本の納税額を無条件に全額控除できるわけではなく、所得区分別の証明が必要です。
関連するガイド・サービス
会社の給与源泉と本人の年次申告を一本化します
滞在日数、タイ・日本の給与、会社負担項目、PND1、社会保険、PND90/91、国外送金、過去申告を確認し、会社側と本人側の差額、必要資料、次の期限を整理します。
一次情報・参考資料
- タイ歳入局:Personal Income Tax
- タイ歳入局:個人所得税率表
- タイ歳入局:Personal Income Tax 2024 e-Forms
- タイ歳入局:Guide to Personal Income Tax Return 2024(PND90)
- タイ歳入局:Guide to Personal Income Tax Return 2024(PND91)
- タイ歳入局:Manual for Foreign Tax Credit Calculation Tool
- タイ歳入局:国外所得の外国税額控除ツール・資料
- タイ歳入局:Withholding Income Tax Return P.N.D.1
- タイ歳入局:PND1の電子申告
- タイ歳入局:日本・タイ租税条約
本記事は一般的な情報整理を目的としています。個人所得税の居住者判定、所得源泉、給与・現物給付、控除、源泉徴収、PND1、PND90/91、国外所得、外国税額控除、租税条約、申告期限の扱いは、対象年度、滞在、契約、支払、証憑、当局運用により変わります。実際の給与計算・申告では最新の公式情報と案件別の確認を優先してください。

